…ギリシャのことを勉強し始めてもう何年も経ちますが、
私は…一度も本気で祝ったことがなかったの……そう、あの男の誕生日を――
「女を踏まなきゃ歩けない!バレンタインには世界のカカオの80%がアイツの家に集まるレベルの色男――でも実際は、その激しすぎる愛ゆえに触るものみな傷つけた…愛したつもりが殺傷事件」でおなじみのあの男…!!
祝おう!あのド変態を!!それも、「まあ、バースデーソングでも歌ってテキトーにやっつけちゃいましょう!」的なやつじゃねえ!!私の持てる知識と愛をすべてかけて!!
今日、あの男の誕生日を祝う――!!
タルゲリオンの7日…すなわち、今で言う本日5月22日!
ギリシャで最も輝かしい一日の、この
アポロンの誕生日を!!
ドキュメント5.22 :死ぬ気のハッピーバースデー!
アポロン誕生日スペシャル!
〜手探りで復元、古代ギリシャのアポロン誕生祭〜
――と、いうことで、今から本気でギリシャ神話の芸術や音楽の神様、アポロンの誕生日を祝います。「本気で」というのは、古代ギリシャの文献から、本当に彼の誕生日のお祭りである「タルゲリア祭」を復元させるということです。
ちなみに、都合上男根丸出しのアポロンの像が何度も出てくるので「アポロン様にはオチンチンなんか付いてないのよっ!!」という乙女は見ないでね!ここから先は男根の全校朝礼よ!!
そして、私はギリシャ神話を研究していますが、ふだんの専門は英雄で…なんというか…アポロンの誕生祭の記録は読んだことがなく…ぶっちゃけ今から碑文読み始めます。読みながら必要なものを調達していこう!っていう完全な土壇場借り物競争方式です!!
―…見せてやるわ、「藤村さんは頑張らなくてもいい所で頑張る人だ」と言わしめた私の底力をな!!
と、いうことでさっそく文献読むぞ!
<アポロンの誕生祭(要約)>
1.まずは、アポロンの誕生祭に必要なものを調達する。第一に、月桂冠(月桂樹の葉を花冠にしたもの)。
………月桂冠。
……。
私「お母さーん!あのさあ、ウチの家庭菜園にさ、月桂樹ってあるー?」
母「あるわけ無いでしょ。月桂樹なんて何するつもり?」
私「頭にかぶりたいんだけど」
母「あんた、勉強のやりすぎで頭おかしくなってんじゃないの?」
私「…月桂樹に似てるようなやつでもいいんだけど、何か無い?」
母「うーん…長ネギは?」
私「お母さん…母として、娘が頭に長ネギ巻いてる姿を見たいと思う?」
母「あら、いいじゃない、長ネギ!首に巻けばカゼ治るわよ!!」
私「私、カゼひいてないし!!違うのよ!もっと崇高な目的なのよ!!」
母「じゃあ、セロリは?」
私「セロリなんか全然ダメだよっ!!セロリは(古代ギリシャでは)葬式の時に頭に巻く植物だもんっ!!違う、違う!!そうじゃないのよ!!お母さんのバカッ!」
母「いったい何があんたを狂わせてるの」
あんたの娘を狂わせてるのはアポロンよーッ!!とは言えずに、私は町へと駆け出した。月桂樹を手に入れるために!
ということで、近所の雑貨屋さんでイルミネーション(←間違えた…イミテーション。もう私の頭の中ではピッカッピカに輝いて見えたのよ!笑 誤字指摘どうもありがとう!!)の月桂樹っぽいものを買ってきました!
これを冠の形に整えて…一緒に買ってきた白いリボンをハチマキの形にして合わせます。
古代ギリシャでは、ハチマキは貴族や指導者の象徴です!
私、一度でいいから貴族になってみたかったのよ!!
そして、これを頭にかぶって、と…
おおおーー!やっべー!私、貴族じゃん!!イイ!雰囲気出てきたっ!!
でも鏡で己の姿見たらすげえアホみたいなんだけど…いや頑張るのよ私っ!今我に返ったら終わりよっ!!
…目の前のアポロンが「今のお前は単なる変態」と言いたげな顔で見てくるのですが、
いや、お前のその全裸マフラーの格好と比べれば…うん、変ではない。
でも、私だけじゃ恥ずかしいからあんたも被るのよ!
月桂樹はこれでクリア!さて、次は?
2.――第二に、必要なものはアポロンの神獣。つまり白鳥かカラスである。
白鳥かカラス。
……。
私「お母さ〜ん!白鳥いない?」
母「今度は何…ってほんとに月桂樹かぶってる!!一体なんなの?!またあのサガとかいう人の何かなの?!」
私「サガとかいう人の祭りは今月末です。それで、お母さん白鳥なんだけど…白鳥なんかないよね?」
母「白鳥ねえ…」
…やはり、こんな土壇場借り物競争方式でアポロンをお祝いするのは無理があるのか…?
古代のギリシャ人は一ヶ月前からアポロンの誕生日の準備をしてるってのに、本当にお前ときたら…!!
母「白鳥ならいるわよ!しかも三匹!!」
私「エっ、マジで!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
白鳥の形の計量カップ。
母、神!!これだ!私が求めていたものはこれなんだ!!
机の上に並べてみました。――完璧じゃないのこれ?!
よし、私のパソコンの上に祭壇が完成したところで、いよいよ祭儀をはじめるぜ!
3.アポロンの誕生祭はタルゲリオンの7日。前日の6日は彼の双子のアルテミスの誕生祭。アポロンの誕生祭を行うには、この前日のアルテミスの誕生祭を行っていなければならない。
前 日 の ア ル テ ミ ス の 誕 生 祭 …
――こんな「ちんこ、ちんこ、男根!」と連呼してるような場所でまさか処女神アルテミスを祝うことなどできぬ、という私の心遣い、完全に裏目に。
やっちゃったーー!!前日にアルテミス祝ってなきゃダメだったのかよ!!
そう、そうだよ…ギリシャでは、アポロンとか、そういう最高位の神様ってのは、いきなり出てこないんだよ!
その神様に関係の深い、より下級の神様とか英雄の祭儀を最初に行わないといけないのよ!!
こういうのを、「導入祭儀」っていうのよ!!
――えーギリシャの祭儀の基本中の基本でございます。
すっかり忘れていた…!!くそぉ、ハーデス様だったら、もうちょっとラフな感じで出てきてくれるんですけど…
アポロンに対していきなり祭儀をするのはやっぱりすごく失礼なのか……。…アルテミス様…お誕生日おめでとうございました。本当にすみません、来年はちゃんと祝う!!
気を取り直して、次の段階に進むぜ!!
4.祭りの最初に、市街地とアポロンの神殿がパレードによって結ばれる。
パレードッ!!よっしゃあ!いよいよ面白くなってきたっ!!
……。
…今、トイレからここまで一人エレクトリカルパレードで練り歩いてきたわ。
途中にいた母が、よく分からないけど楽しそうだからむしろ母も混ぜてくれと言ってましたが、長ネギでも首に巻いててくれ、の一言で返しました。
すまぬ母よ!!これは私とアポロン、一対一の戦いなのよッ!!
さあアポロン、次は何だ!?こんな風に正式にお祝いされるのは2000年ぶりだろうが!!まあ、規模的にはしょぼすぎるけど、祝って祝って祝いまくってやるわー!!
5.アポロンに対する讃歌が歌われる。
……スッチャチャラッチャ♪チャ〜ラ〜〜♪
♪ドゥ・ユー・ビリーブ・ミー? アンドゥ・ユー・ニード・ミ〜♪
君なしじゃ 恋はお・ぼ・ろォ〜!
♪愛されて咲くという・ひまわりのような〜
熱い肌に恋・し・ようー!♪(※サザンオールス●ーズ「太陽は罪な奴」)
〜ギリシャはビーナスたちの交差点〜!
愛欲でときめ〜く デーロス〜!(※アポロンの生誕地)
あの〜空へ・しぶきー上げて♪
アポロンに♪キスをしよう〜!!
恋す・る・夏は行く〜!!Ah!アポロンは・罪な奴ぅ〜〜!
……どう?「アポロン(=太陽神)」と「太陽」を掛けた私の渾身のアポロン替え歌は!?
いや、「讃歌」というのはそういうことではなく…という話は全然聞きたくない。
よーし、次だ!!
6.アポロンに対して生け贄を捧げる。高い祭壇の上で、獣(牛が望ましい)を焼く。その際、生け贄を焼く煙が天まで届くようにすること。
…こんな所でそんなもん焼いたら煙が天に届く前に火災報知器が鳴り響くわ。
牛を捧げる―…OK、手は打ってある!!見るがいい、私の最終兵器!!
まあ、オ●ジン弁当の牛丼ですけど。
コイツをこのアポロンの絵皿(レプリカ)の上に乗っけて…捧げる、と。
…完璧すぎて身震いしちゃうわ。
さあ、そしてここからがこのミッションの最重要部分です。
7.焼いた獣で正餐(せいさん)をとる。
アポロンの祭儀で一番重要なのは、この正餐です!
つまり、アポロンと一緒に食事をするんだ!!
牛丼の肉は一部だけアポロンに捧げて、残りの部分は私が食べます!!
…いただきまーっす!!アポロンっ、お誕生日おめでとうーーっ!!
…ところで、こういう儀式、っていうのは、何かしらタブーとか「やっちゃいけない行為」があるのが普通なんですが…
たとえば、大地母神デメテルのお祭りの期間中は、地面に落ちているザクロの実を食べてはいけない、とか、ハーデス様の祭の最中は、ハーデス様の神像と絶対に目を合わせてはいけない、とか…
私、さっきからアポロンのことガン見しまくってるんですが、これは大丈夫なのか…。
と、牛丼食いながら、文献に目を通していると…あ、あった。「タブー」の項目です。
7.アポロンの祭儀の一ヶ月前からは、凶事にあたる行為(例えば、死刑の執行など)をしてはならない。
…一ヶ月前から不幸を呼ぶような行為をしてはならない、と。一ヶ月前…?まあ、先生に「青春の過ち・ウンコもらしSP」と書かれたファイルを見られたりしてましたが。あれは凶事にあたらないよね?私にとっては大凶事だったけどさあ!まあいいや!パーッとやって忘れようぜ!!
…………
アスクレピオス「父上!お誕生日おめでとうございます!!」
アポロン「おおっ、アスクレピオスじゃないか!わが息子よ!!わざわざ来てくれたのか!?」
アスクレピオス「もちろんです、父上。私に医術の心得を授けて下さったご恩、決して忘れません。おめでとうございます。」
アポロン「…影でみんながお前のことをなんて言ってるか知ってるか?『父よりできた息子』だぞ。今、私自身本当にそうじゃないかと思う。」
アスクレピオス「…父上。」
アポロン「お前は真面目に人を癒してるのに、私ときたら女の尻を追い掛け回して3000年。本当にお前は私には出来すぎた息子だ。ありがとう、アスクレピオス。」
・・・一体全体なにが始まったんだ?というところで、
後半へ続く。
神話トップへ← →後半へ
|